2018年10月13日 第3回研究会

日時:2018年10月13日(土)13:30~15:30
於:早稲田大学 戸山キャンパス

 

 

【プログラム】

1.研究発表
  ロマンティック・バレエ ロマン主義とロマン的なるもの
  松澤慶信(日本女子体育大学教授)

romantic balletを訳すと、ロマン主義時代の(歴史概念)バレエと、ロマンティックな(範疇概念)のバレエとの二つの意味を持つと思います。
前者については、バレエ史の方からの研究も盛んに行われて、その成果をあげていると思いますが、19世紀前半に起こったロマン主義運動を、18世紀の美学芸術学概念との比較からその発生を見て、歴史概念としてのロマン主義、そして歴史概念としてのロマンティック・バレエとは何かをまとめたいと思います。
もう一方の範疇概念としてのロマンティックに関しては、古典主義とロマン主義の対比から始めてその発展形としての表現主義とフォルマリズム(強いてはモダニズム)に及び、ロマンティックという術定的形容詞がはらむロマン的なるものの意味内容、そしてその存在論的在り方(Befindlichkeit)を通して曖昧さをあぶり出して、実はこれこそが舞踊言語の本質契機であることを確認したいと思います。

2.文献紹介
  Matthew Naughtin, Ballet Music. A Handbook. (Rowman&Littlefield, 2014)
  森立子(日本女子体育大学教授)

1997年よりサンフランシスコ・バレエ団の音楽司書の任にあるマシュー・ノーティン氏が、その経験をもとに、バレエ上演、また特にバレエ音楽の諸問題について論じた上掲書を採りあげ紹介する。また、この文献紹介に関連づけながら、発表者が今後共同作業によって進める予定の「バレエ音楽アーカイブプロジェクト」について、その概要をお話ししたい。

 

【報告】

 

本日の研究発表は、松澤慶信先生にご担当いただきました。発表タイトルは、「ロマンティック・バレエ ロマン主義とロマン的なるもの」。「ロマンティックromantic」の語に、歴史的区分(=ロマン主義時代の)としての側面と、カテゴリー(=ロマンティックな)としての側面があるという点から出発し、その各々に関して、美学芸術学領域における議論を整理した上で、この議論と「バレエ」との呼応関係、ならびにその一方で指摘しうる「バレエ」の特殊性について論じられました。また、発表の中では、「形式」と「内容」の比重という視点から検討することで描きだされた、18世紀後半から20世紀初頭に至るバレエ史の見取り図が示され、特にその中で、「ロマンティックI」(プロットを核とする)、「ロマンティックII」(雰囲気を核とする)という二つの「ロマンティック」を立てて考えることが有効であるとの指摘がなされました。およそ2世紀のスパンを視野におさめたスケールの大きなご発表で、フロアからも、バレエ史におけるロマンティック・バレエをいかに語るべきかについて貴重な示唆を得た、との感想が上がっていました。

続く書籍紹介は、森立子が担当いたしました。今回紹介したのは、20年余りにわたってサンフランシスコ・バレエ団の音楽司書を務めてきたマシュー・ノーティン氏の著作Ballet Music. A Handbook.(Rowman & Littlefield, 2014)。本書は、第1部と第2部から構成されており、発表では、第1部(どのようにバレエ団が運営されているか、どのようにバレエが創作されているのかといった問題を中心に論じた部分)の概要を紹介した後、第2部のバレエ作品のカタログについて、その特徴と、使用に際して注意すべき点を示しました。

 特にバレエ音楽については、その伝承形態の特殊性ゆえ(いわゆる「原典版」は通常存在しない)、カタログ化がなかなか進んでいないという現状があります。その意味で、各作品の音楽についての情報を豊富に盛り込んだ本書の価値は非常に高いと評価出来るのですが、一方で、(日本において、研究を主たる目的とする)我々が使用する際には、さらに別種の情報を補う必要も生じてきます。こういった問題意識を基に、発表者と研究会の有志メンバーで「バレエ音楽アーカイブプロジェクト」の作業を現在進めていることを最後にご報告いたしました。